1.26.2013

老子と少年_03

「人は思う。かわらぬ『私』を支える何かがあるはずだ、と。だが、それは、どのようにしても見つけられない。なぜなら、『私』という言葉は、確かな内容を持つ言葉ではなく、ただある位置、ある場所を指すに過ぎない」
「その場所はどこですか」
「『あなた』や『彼』ではないところ、『いま、ここ』だ。『私』はそこについた印なのだ」
「それだけのこと?」
「それだけだ。その場所に人は経験を集め、積上げ、それを物語る」
「物語る?」
「集められ、整理され、まとめられる。それが言葉を持つ人間というものの在り方なのだ。『私』という名前の物語を作らなければならない」

老子と少年「第二夜」 南直哉

ghostwriter