1.11.2014

03 サンカーラ_09

悩みというのはすべて、その人の考え方が原因なのだ。その人のものの考え方が原因なのだ .. はっきりと、実感として理解できた。そうなんだ、悩みとは思考パターンの問題。そんなことはいくらでも本に書いてある .. すべてが思い込みなんだ。大いなる思い込みによって人は自分で穴を掘りそこに落ちて不幸になっているだけなんだ。

なぜそんな穴を掘るか。怖いからだ。なにかを怖れているからそんな穴を掘って自ら落ちて、その穴から出ようとしないんだ。それがまさに私だ。私がそうだった。兄を認めること、兄を許すことは、絶対に無理だと思っていた。そんなことは何億円を積まれても金輪際無理だと思っていた。なぜだろう。なにが怖かったのか。兄を許すと私はどうなると思っていたのだろう。どうにもならない。私が怖れていたのは取るに足らないプライドが揺らぐこと。頑なに自分の思考パターンにこだわりたかった。なぜなら、怒りのはしごを登っていたから。はしごをはずされたら降りられないと不安だった。

兄を治療したりする必要はなかった。音楽を聞いて兄が心穏やかならそれでいい .. と、なぜそう思えなかったのだ。私が兄に伝えなければいけなかったことは、たった一つだ。
お兄ちゃんが、好きだ。
そのひと言でよかったのだ。

兄はどんなに、その言葉を必要としていただろうか。家族から「いまのままのあなたではダメだ」と言われ「働いたら好きになってあげる」と条件をつけられていたのだから。そんな事を言われ、軽蔑されて生きるのはほんとうに辛かろう .. 。

兄のおかげで自分のことがよくわかった。私はずっと自分は好きなように生きていると信じていた。自由だと思い込んでいた。違う、ぜんぜん自由じゃなかった。

なにをしたいのか。どう生きたいのか。兄の問題ではない。私の問題だ。考えよう。それまで素直に従えなかった自分の願望を、自由に表現したらどうなるのか。そんなことが可能なのか。

自分を賢く見せることもなければ、謙遜することもない。まんまで生きること。素直になること。
.. その結果として、作家になった。

田口ランディ "サンカーラ"

ghostwriter