.. 阿蘇の生活はきつかったです。寒いし。それから出家してみると、まわりにいる人たちがもうみんな変な人たちばかりで、やだーとか思いました。変というか、もう自分勝手な人ばっかり。常識というのがないし、なにしろ自分のことしか考えてないんです。それで、同じ支部出身の人たちにはまだ比較的普通の人がいたんで、その人たちと固まっていました。麻原さんにも一度言ったことがあるんですよ。「なんか変な人が多くないですか、ここ」って。「そんなことはない」って麻原さんは言ってましたが。
.. 私が上九を出たのも、指揮系統が滅茶苦茶になってきて、それが嫌だったからです。正悟師クラスが全員逮捕されてしまって、師がそれぞれに勝手な命令を出し始めて、そういうのを目にしていると「もういいや」と思って。麻原さんがいなくなったんだから、もうこれはおしまいだなと。出て行くときにはとくに問題はありませんでした。出ようと思ってそのまま出て行きました。
.. 今は美容関係の仕事をしています。ここにも一度警察の人が来ました。そのときは頭にきました。だって私は記憶とか消されちゃってるんだし、私のほうが被害者なんだよと思いました。冗談じゃないって。でもしばらくたったら、「ああ、私は被害者じゃなくて加害者側なんだな」って思うようになったんです。だから警察に対してつんけんするのもやめて、知っていることは全部きちんと話すようにしました。
.. 指示されたらやっちゃうだろうなとは思います。とくに新實さんなんかはもう絶対にしちゃう。廣瀬(健一)さんなんかともちょこちょこ話はしたんですが、ほんとに素朴な人です。なんていうのかな、やはり同情しちゃいますよね。命令されて「嫌です」なんて言える雰囲気じゃありません。
.. 親戚が見合いの話なんかももって来るんです。そろそろ結婚したらどうかって。でもオウムとか、そういう凶悪犯罪を犯すところにいた人間は、結婚なんかしちゃいけないんじゃないかって思います。もちろん私が犯罪を犯したわけじゃないんですが、すくなくともそこで一生懸命何かをしていたわけだし。
岩倉晴美(元信者) 「約束された場所で」村上春樹
ghostwriter