6.28.2013

37_約束された場所で_09

河合:.. 地震は天災だからちょっと違いますが、もし冷戦体制が続いていたら、オウムみたいなものは出てきにくいですよね。つまりどっちから見ても、目に見える悪がちゃんとあるわけですから。あれをやっつけないかんとか、みんな割に頭の整理がしやすいわけです。ところがその整理がつかなくなってどうしていいかわからんときに、ぱっとこういう変なものが出てくるわけです。
村上:僕はそれをストーリー性という言葉でとらえるんです。
河合:要するにストーリーの軸が失われたところに、麻原はどーんとストーリーを持ち込んでくるわけですよね。
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村上:それからこれは僕の仮説なんですが、麻原の提出した物語が彼自身を超えてしまったということも起こりうるんじゃないかと。
河合:それがストーリーの恐さです。ストーリーの持つパワーがその個人を超えてしまうんです。そして本人もその犠牲になっていくんです。
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河合:だから麻原も終わりの頃には、もうやめてしまいたいと思っていたのではないでしょうか。でもやめたいと思っていてもやめられないです。ヒットラーなんかもそうだったと思いますね。やめようがなくなるんです。自分が作った物語の犠牲に自分がなってしまう。それとこれまで、死に関するストーリーというものが世間になさすぎたんです。だから麻原のようなあんな単純な物語でもすごい力を持つことが出来たんです。昔は死に関するストーリーがいたるところにありました .. だから親鸞さんの話とか聞いてみんな感激していたわけです。ところが今はこの世に生きることにみんな熱心になりすぎて、死ぬということが盲点になっています。そこに猛烈に彼が出てきたわけだから、若い人たちはわあっとそっちに行ってしまった。それはわかる気がしますね。
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村上:麻原の物語というのは結局枯れのパラノイド性に汚染されていくわけですが、そのパラノイド性に対向する有効なワクチン的物語を社会が用意できなかったというのはやはり問題ですよね。

河合隼雄との対談 「約束された場所で」村上春樹


質問:オウム真理教の事件がなぜ起こったのか?
回答:麻原が悪いやつだったから。
だと0点。
オウム真理教事件のような、日常の言葉を使って語ることの出来ない種類の出来事を探ると、私たちはようやく言葉=思考フレームのフチまで行ってその内壁に手を触れることができます。

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